事件番号:JP2011-0003

                                    裁  定

    申立人:
    (名称)インター・イケア・システムズ・ビー・ヴィ
    (住所)オランダ国  Olof Palmestraat 1 NL 2616 LN Delft
    代理人:弁護士  永井  紀昭
            弁護士  山口  健司
            弁護士  石神  恒太郎
            弁護士  瀧村  美和子
            弁理士  外川  奈美
    登録者:
    (名称)Classic Furnitures Inc.こと柳澤  宗一郎
    (住所)東京都世田谷区上馬5‐14‐2‐2F
    (連絡先  東京都新宿区西新宿3丁目7番地1号新宿パークタワーN棟30階)

  日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイ
ン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処
理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基
づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1  裁定主文
    ドメイン名「IKEA-STORE.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2  ドメイン名
    紛争に係るドメイン名は「IKEA-STORE.JP」である。

3  手続の経緯
    別記のとおりである。

4  当事者の主張
a  申立人の主張の要旨
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
同一または混同を引き起こすほど類似していること
ア  申立人は、商標「IKEA+図形」につき、指定商品及び役務を16類:紙、定期刊行物、
出版物等、20類:家具、鏡等、35類:家具などの小売及び卸売業、広告業等、43類:飲
食物の提供業、一時宿泊施設の提供等とする登録第926155号商標(2009年7月10
日登録)、商標「IKEA」につき、指定役務を35類:報告、商品の販売に関する情報の提供
等とする登録第3297312号商標(1997年4月25日登録、2007年5月1日更新登録)
を有している。
イ  登録者は、ドメイン名「IKEA-STORE.JP」(「本件ドメイン名」)をJPRSに登録して
いる。
ウ  本件ドメイン名の要部は、「IKEA」であり、申立人の商標と同一である。したがって、
本件ドメイン名は、申立人の商標と混同を生じさせる。
(2)登録者が、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
ア  申立人は、登録者に対して、本件ドメイン名の使用を許諾したことはなく、登録者は、
申立人の商標若しくはこれに類似する商標権または商号権を取得していない。
  登録者が「IKEA-STORE.JP」という名称又は「IKEA」という名称で一般に知られていた事
実はない。
  申立人の商標は、日本国内のみならず世界中で非常に周知著名であるため、登録者は申
立人の商標を知らずに本件ドメイン名を登録、使用しているとは考えられない。
イ  登録者は、本件ドメイン名をURLとするウェブサイト(「登録者のウェブサイト」)上
に、申立人のウェブサイトに掲載されている写真と同一の写真を多数掲載している。また、
登録者のウェブサイトのトップページには、「イケアについて」、「社会と環境に対する
責任」、「イケアの沿革」、「数字でみるイケアグループ」等と表示し、それらをクリッ
クした先のページの中に、申立人のウェブサイトに掲示されている文章及び写真と同一の
文章及び写真が掲載されているページがある。
ウ  登録者は、意図的に、申立人又は申立人のグループ会社が開設したものであるかのよ
うな外観を有するウェブサイトを作出し、消費者の誤認混同を引き起こそうとしている。
エ  登録者は、ウェブサイト上で、申立人製品を申立人の店頭での定価の約2倍の価格で
販売しており、商業的利益を得る意図を有している。
(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
ア  申立人は日本国内においても5店舗を構えて事業を展開し、精力的な広告宣伝活動を
行っており、申立人の商標は日本国内でも極めて著名である。
イ  登録者のウェブサイトのトップページには、当初、申立人のウェブサイトで表示して
いる「IKEA」の表示と非常によく似た色、字体大きさの文字で、大きく「IKEA STORE」と
表示されていた。
  消費者から、申立人の日本におけるフランチャイジーに対して、登録者のウェブサイト
を申立人の通信販売用のウェブサイトと勘違いしたとのクレームが寄せられた。
ウ  申立人は、登録者に対し、平成22年2月23日付けの通知で、登録者の行為が商標
法、不正競争防止法、著作権法に反した違法なものであると指摘し、登録者のウェブサイ
トの運営を中止することを求めた。
エ  登録者は、上記「IKEA STORE」の表示を「STORE」に改める等したが、登録者のウェブ
サイトは、依然として、申立人又は申立人から許諾を受けた者が開設したサイトであるか
のような外観を有している。
オ  本件ドメイン名は、申立人の高い知名度に便乗するべく登録申請が行われ、使用され
ているものである。
(4)以上のとおり、登録者の本件ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほど
に類似し、登録者は本件ドメイン名について正当な利益を有していない、そして、本件ド
メイン名は不正の目的で登録され使用されている。
  よって、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

b  登録者の主張の要旨
(1)登録者は、登録者のウェブサイトを申立人のものとして混同することを防止するた
め、次のように当該ウェブサイトに多様な表示と告知を行っている。
  ア  「当店はイケア社製家具の通販、買物代行サービス会社になります。」(申立人本人
による代行はありえない。)
  イ  「IKEA社製家具」という文言を使用し、申立人のウェブサイトではないことを明確
にしている。
  ウ  登録者のウェブサイトのすべてのページに、「「イケア」、「IKEA」など、【STORE】
イケア通販に掲載しているブランド名、製品名などは一般にInter IKEA Systems B.V.の
商標または登録商標です。【STORE】イケア通販では説明の便宜のためにその商品名、団体
名などを記載する場合がありますが、それらの商標権の侵害を行う意志、目的はありませ
ん。当店はイケア通販専門店になります」と記載し、申立人とは一切関係のないウェブサ
イトである趣旨を明記している。
(2)登録者は、申立人製品の買物代行サービス会社であり、本件ドメイン名に関する権
利及び正当な利益を有している。
  ア  登録者のウェブサイトで販売する製品の価格が高額であると申立人は指摘している
が、再販売価格は市場で決定されるものであって、インターネットでは高額で転売される
場合も多くあり、そのこと自体非難されるべきことではない。
  イ  登録者は、申立人が申立人製品をその店舗でのみ販売しておりオンラインでは販売
していないので、申立人店舗より遠方に居住している人々に申立人製品の購入が可能なよ
うに購入代行を行っており、このことを消費者に認知してもらうためにドメイン名
「IKEA-STORE.JP」を登録しているのである。
(3)本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されていない。
  ア  本件ドメイン名は、申立人の高い知名度に便乗するべく登録申請が行われたもので
はなく、上記(1)アで述べたように、「イケア社製家具の通販、買物代行サービス会社」
として運営するために登録されたのであり、本件ドメイン名を高額で販売、貸与すること
を主たる目的として登録したものではなく、また、申立人が権利を有する商標その他の表
示をドメイン名として使用できないように妨害するために登録したものでもない。
  イ  申立人製品の写真をそのまま登録者のウェブサイトにアップロードすることや商品
の説明文を記載することは、消費者に商品を説明するために必要なことである。
  上記(1)ウで述べたように、「「イケア」、「IKEA」など、【STORE】イケア通販に掲
載しているブランド名、製品名などは一般にInter IKEA Systems B.V.の商標または登録
商標です。【STORE】イケア通販では説明の便宜のためにその商品名、団体名などを記載す
る場合がありますが、それらの商標権の侵害を行う意志、目的はありません。当店はイケ
ア通販専門店になります」と記載し、消費者が誤認混同しないようにしている。事実、消
費者からの問い合わせで、申立人のIKEAとは全く関係のない通販サイトでるということ
を理解している内容のメールも多数あるのである。

5  争点および事実認定
  規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。
  「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則およ
び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければなら
ない。」
  方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
  (ⅰ)  登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
      と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  (ⅱ)  登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
  (ⅲ)  登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

  以下、これに従って検討する。
(1)同一又混同を引き起こすほどの類似性(処理方針第4条a(ⅰ))
  本件ドメイン名は、「IKEA-STORE.JP」」である。本件ドメイン名の「STORE」の部分は、
「店」を意味する普通名称であり、特段の識別力を有するものではない。また、「.JP」は
日本の国別コードを示すトップレベルドメインであり、特段の識別力を有するものではな
い。したがって、識別力を有する要部は、「IKEA」である。
  申立人が、「IKEA」の文字を楕円形で囲み、この楕円形を長方形で囲んだ構成よりなる
登録第926155号商標及び「IKEA」の文字からなる登録第3297312号商標(両
商標の指定商品、指定役務は申立人主張のとおり。)、を有していることが認められる(甲
第3号証)。これら登録商標の要部が「IKEA」にあることは明らかである。
  本件ドメイン名と申立人の登録商標を対比すると、要部である「IKEA」において共通す
るから、本件ドメインは、申立人の有する上記登録商標と類似又は同一と認められる。
  したがって、本件ドメイン名は、申立人が有し正当な利益を有する登録商標と混同を引
き起こすほど類似しているといわなければならない。
(2)登録者の本件ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益の存否(処理方針第
4条a(ⅱ))
ア  申立人は登録者に対して本件ドメイン名の使用を許諾しておらず、登録者は申立人の
「IKEA」商標若しくはこれに類似する商標権又は商号権を取得していない。
  登録者は、「IKEA-STORE.JP」」という名称又は「IKEA」といった名称で一般に知られて
いた事実はない(処理方針第4条c(ⅱ))。
イ  申立人は、世界的に著名な家具、調度品その他室内装飾品の小売フランチャイズシス
テムのフランチャイザーである(甲第8号証、甲第9号証)。日本国内においても5店舗
が運営されており、日本のフランチャイジーの売上高及び広告費はそれぞれ、2007年
9月から2008年8月期は約395億円及び約16億円、2008年9月から2009
年8月期は約576億円及び30億円、2009年9月から2010年8月期は約575
億円及び26億円(それぞれ見込み)であり(甲第10号証)、申立人の商標は日本にお
いても著名であると認められる。
  登録者は、「IKEA」との文字含む本件ドメイン名を使用し、そのドメイン名をURLとす
るウェブサイト(http://ikea-store.jp/)を「Classic Furnitures Inc.」名義で運営して
いるが、このウェブサイト上に、「【IKEA  STORE】イケア通販」と表示し、申立人のウェ
ブサイトやカタログ等に掲載している商品の写真と同一の写真を多数掲載するとともに、
ページの左下に、「【イケア】について」と題するコーナーを設け、「社会と環境に対する
責任」、「イケアの沿革」、「数字でみるイケアグループ」といった項目を表示し、「イ
ケアの沿革」をクリックした先のページに、申立人のウェブサイトに掲載されている写真
及び文章と同一の写真及び文章を掲載し、あたかも申立人又はその関係会社が作成した通
販用のウェブサイトであるかのような外観を作出し、申立人製品を申立人の店舗における
定価の約2倍の価格で販売している(甲第19号証、甲第20号証の1、2、甲第21号
証の1、2)。
  登録者は、ウェブサイトの各ページの最下部に「「イケア」、「IKEA」など【IKEA  STORE】
イケア通販に掲載しているブランド名、製品名などは一般にInter IKEA Systems B.V.の
商標または登録商標です。【IKEA  STORE】イケア通販では説明の便宜のためにその商品目、
団体名などを掲載する場合がありますが、それらの商標権の侵害を行う意志、目的はあり
ません。当店はイケア通販専門店になります。」との表示をしているが、登録者が提供す
るサービスが申立人又は申立人の関係会社と全く関係のない第三者である登録者が提供す
る申立人製品の購入代行サービスであることを明示していない(甲第19号証、甲第20
の1号証、甲第21の1号証)。
  以上の事実から、登録者は、日本を含む世界中で著名な申立人又は申立人の関係会社が
運営する通販サイトを装い、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こ
すことにより商業上の利益を得る意図を有するととともに、本件ドメイン名を非商業的目
的に使用していないこと及び公正に使用していないことが認められる(処理方針第4条
c(ⅲ))。
  ウ  上記ア及びイの事実に加えて、登録者は申立人からの申し入れがあるまで、登録者
のウェブサイトの中央上部に、申立人のウェブサイトに表示されている「IKEA」の文字と
非常によく似た色、太文字の字体で大きく目立つように「IKEA  SOTORE」との表示がされ
ていたことが認められるから(甲第35号証、甲第22号証ないし甲第29号証)、登録
者は、意図的に、日本を含む世界中で著名な申立人又は申立人の関係会社が運営する通販
サイトであるかのような外観を作出し、消費者の誤認を利用する方法により、申立人製品
を定価の約2倍で転売し、商業上の利益を得ていたものと認められる。したがって、登録
者は、本件ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関から通知を受ける
前に、商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、本件ドメイン名に関
係する権利または正当な利益を有していたとはいえない(処理方針第4条c(ⅰ))。
  エ  以上の事実から、登録者は、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有
していないということができる(処理方針第4条a(ⅱ))。
(3)不正の目的での登録及び使用(処理方針第4条a(ⅲ))
  処理方針第4条a(ⅱ)の要件について前述した理由によれば、登録者が、商業上の利得
を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれ
らに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係など
について誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウ
ェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を
使用していると認められる(処理方針第4条b(ⅳ))。
  したがって、登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されているとい
うことができる(処理方針第4条a(ⅲ))。

6  結論
  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「IKEA-STORE.JP」が申立人の登録商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者がドメイン
名について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録
されかつ使用されているものと裁定する。
  よって、処理方針第4条ⅰに従って、ドメイン名「IKEA-STORE.JP」の登録を申立人に移
転するものとし、主文のとおり裁定する。

     2011年8月31日

      日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            牧  野  利  秋
                            単独パネリスト


別記  手続の経緯

(1)申立書受領日
      電子メール  2011年6月21日  書面  2011年6月22日
(2)手数料受領日
      2011年6月21日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2011年6月21日  JPRSへ照会
      2011年6月21日  JPRSから登録情報の確認
        確認内容:JPRSのドメイン名照会に対する通知による限りにおいて、申立
                  書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2011年6月23日
    に、処理方針とJPドメイン名紛争処理手続規則(以下、手続規則という。)に照らし、
    申立書に「申立人が希望する連絡方法の詳細」(B)の記載と手続規則所定の結語を補
    充すべき旨の不備通知を行い、翌6月24日、補正申立書を受領して、申立書が手続
    規則に適合したことを確認した。
(5)手続開始日  2011年6月28日
      手続開始日の通知  2011年6月28日に申立人、登録者、JPRS及びJPNICへ通
    知(電子メール、ファクシミリおよび郵送)
(6)登録者への通知日及び内容
      1) 2011年6月28日(電子メールおよび郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2011年7月27日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、2011年7月26日にJPRSのドメイン名照会に対する通知上登
    録者とされている法人名で作成された答弁書を受領したが、記名捺印した者の代表資
    格を証明する書類の添付がなかったため、翌7月27日、記名捺印者の代表資格を証
    明する公的書類または実際の登録者が個人としての記名捺印者本人である場合にはそ
    の旨の上申書を2011年8月5日までに提出することを求めた。
      これに対し、上記のいずれの書類も提出されなかったため、センターは再度、20
    11年8月12日までに上記いずれかの書類を提出することを求めたところ、同年8
    月11日、上記記名捺印者から、本件ドメインの登録者は記名捺印者本人である旨の
    上申書を受領した。
(8)パネリストの選任  2011年8月11日
      申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2011年8月11日
      パネリスト:牧野 利秋
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2011年8月11日  JPNICおよびJPRSへ通知(電子メール)
                            申立人および登録者へ通知
                            (電子メール、ファクシミリおよび郵送)
      裁定予定日:2011年8月31日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2011年8月12日(電子メールおよび郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2011年8月31日  審理終了、裁定。